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海外調査

  • 2023年 フランスにおける公共交通調査団 ~新たなバス交通システムの導入に向けて~
 BRT 等新たなバス交通システム研究部会の調査活動の一環として、都市の形態や特性に合わせた公共交通として BRT・BHNS 等新たなバス交通システムの導入を図りながら、特徴のあるまちづくりの取り組みが行われている諸都市の取り組みと実例を把握し、今後の我が国での展開に向けた新たな知見を得ることを目的として、海外調査を実施しました。

  <海外調査報告にあたってのメッセージ > 
 BRT 等新たなバス交通システム研究部会部会長:東京大学大学院 特任教授 中村文彦

 このたび、公益社団法人日本交通計画協会 BRT 研究部会フランス現地調査団に参加し、アングレームとバイヨンヌの2都市のいわゆる BHNS(後述)の視察の機会をいただいた。

 研究部会の名称である BRT(Bus Rapid Transit)という用語は、米国では 1996 年頃から公式に用いられるようになった単語で、日本でも 21 世紀になってよく使われるようになった。海外を含め、その理解には幅があり、混乱している場面もある。国土交通省においても道路局でガイドラインが 2022 年に発刊されているが、そこでの説明は、国際的な理解とは一致していない。

 BRT というからには Rapid な Transit でなくてはならず、Rapid という意味は、米国で使われていた過去までさかのぼると、混雑している都心地区での自動車の交通流の速度よりも「速い」ところがポイントのように理解できる。従って、連節車両を用いているかどうかは重要ではなく、連節車両を導入しただけのサービスは BRT と呼ぶのはふさわしくないことも言うまでもない。

 その上で、世界の様子をみた上で、大きくは3つの流れがあると考えている。

 1つめは、筆者(中村文彦)らが、あちらこちらで紹介しているブラジルのクリチバ市やコロンビアのボゴタ市をはじめ、地下鉄等大量輸送型の軌道システムの代替システムとしての BRT である(地下鉄代替的 BRT)。専用道路、専用駅、連節車両、車外運賃収受等により輸送力と速度を確保している。

 2つめは、今回の視察の対象が該当するものである。都市圏内の骨格をなす幹線路線で、いわゆる LRT(Light Rail Transit)の導入が期待されるものの、財政的な理由等で LRT 導入が困難な場合に代替として用意されるバスシステムである(LRT 代替的 BRT)、欧州では、地下鉄代替的 BRT と区別するため BHLS(Bus with High Level of Service)と呼ばれるようになった。多くの先進的な導入例を有するフランスでは、フランス語の BHNS (Bus à Haut Niveau de Service)と称される。本報告でも BHNS と表記する。

 3つめは、地域の人口減少等により利用者が減少したことや、あるいは地震や豪雨等の自然災害のため、休止あるいは廃線となった鉄道路線の線路用地をバス専用道路にした経緯を持つものである(鉄道廃止代替 BRT)。最初から専用道路が用意されている結果、鉄道時代よりは速度が落ちるものの、それでも一般道路の走行よりは多少速く、その意味で Rapid な乗り物と言える。

 以上の3分類のうち、地下鉄代替的 BRT は、既に多く紹介されているものの、日本でのニーズは少ない。逆に鉄道廃止代替 BRT は、海外では必ずしも事例は多くなく、むしろ日本でのこの十数年の経験から学べることが多い。LRT 代替的 BRT については、フランス等に好事例が多いものの、それほどきちんと体系的に紹介、分析されていない。そして、日本の大都市郊外部や地方中枢都市、地方中核都市においては、この種の BRT のニ ーズは十分にあると思われる。そもそも、現代の日本のバス事業では、コロナ禍の結果としての需要減少、それ以前から兆候のあった運転士の高齢化や退職増加をはじめとしたさまざまな問題に直面している。これらを払拭する新しい未来像の提示が必要な時期になっており、BHNS への潜在的な関心は高くなっているといえる。

 以上のように考えると、このタイミングで、優れた BHNS 事例を現地調査し、このように報告をまとめることは、きわめて意義の大きな活動であるといえる。報告の冒頭にこの思いを伝えることができることに感謝する次第である。

 さて、視察した2都市の BHNS からは多くのことを学ばせていただき、さらにいろいろなことを考えることができた。それらについては、多くの講演等では紹介しているが、ここにそのエッセンスを記させていただく。

 BHNS は中規模の都市で、都市空間の背骨となる幹線路線を担っている。恐らくは大都市圏郊外部でも鉄道駅にアクセスする幹線路線として有用といえる。それらの幹線路線は、都市空間の背骨であり、地域を支え、育て、持続させていく役割を担うことが期待されている。

 今回の2都市で学んだのは、第一に、その役割を実質的なものにするために、圧倒的な存在感と地域からの高い信頼を得ていること、第二に、その結果でもあるが、平日も休日も朝夕も日中も多くの方に利用されていることの2つを重視していることである。

 そして、存在感を高め、信頼を得て、利用を実質化するために、十分な情報提供を行い、潜在的な需要層に強く働きかけている点が、なんといっても特徴的である。フランス語が流暢ではない我々でも、現地にすんなりと馴染めて利用できたことは、その成果のあらわれともいえる。

 そのための具体的な要素として、低環境負荷、車内治安も含めた安全性、乗降を容易にするための運賃制度と支払いシステム、以前、本協会から世に送り出した PLUSSTOP 同様、段差をなくし同じく乗降を容易にするためのバス停縁石の工夫、等を取り入れている。

  BRT の指標としてよく用いられる定時性、速達性、輸送力については、これらの BHNS では、確実な定時性、ある程度の速達性、ある程度の輸送力が達成されているといえ、それは市民のニーズを満たしているといえる。定時性と速達性は分けて議論しておいたほうがよいようである。

 システムの要素としての、車両、駅や停留所、道路インフラについては、ここまで述べてきたストーリーに基づいて設計、運用されている。車両、停留所、道路のあり方から BRT を考えてしまう手順と比べて、かなり異質な発想と言える。優先信号制御については、ラウンドアバウトを貫通するような存在感のある専用道路設計やバス停設計と連動させ、BHNS の定時性を高めるとともに存在感を際立たせることに大きく貢献している。交通工学的計算を超えた判断がある。

  よく言われる MaaS や自動運転についても、上記の枠組みで位置づけを理解することができる。
MaaS は、定時性の提示、運賃収受の支援、そして潜在層への情報提供で大きな役割を担える。
自動運転の技術は、低環境負荷、安全、定時性、速達性、輸送力に大きくかかわることのできる技術体系であることも想像できる。新技術に囚われすぎている我々の反省すべき点かもしれない。 

 都市の公共交通の制度も歴史も大きく異なる異国の都市のバスではあるが、そこから学べる根本の思想は、わが国にも十分通じるものであり、その要素のひとつひとつも決して縁遠いものではない。いざ実現させようとすると、技術、制度、財源といった課題がある。幸いに 2023 年 10 月に改正された地域交通法(地域公共交通活性化再生法の略称)および関連する新制度や新事業を活かすことで、制度面、財源面の課題の多くをクリアできる可能性は高い。しかしながら、BHNS のようなバスシステムを導入して、なにをめざすのか、有限な空間や財源の中での優先順位を誰がどう提案して合意をとって決定するのか、行政と民間事業者、そして市民の役割分担とリスク分担をどのようにバランスをとっていくのか、このあたりを詰めることなく表面的な物真似をしているだけではいけない。少しでも実寸で動き出せば、その先の流れをより育てやすくなる。本報告のさまざまな情報を少しでも多くの方に学んでいただき、都市を変え、未来を豊かなものにしていくバスシステムとしての BHNS を真剣に考える人たちが増えることを切に願っている。


  <調査概要>
  【日  程】
 2023 年 5 月 20 日発~2023 年 5 月 28 日着

  【訪問都市】
 フランス (ボルドー・アングレーム・バイヨンヌ・リヨン・パリ 等)

  【調査団構成メンバー】
 団長:BRT 等新たなバス交通システム研究部会部会長:中村文彦東京大学大学院 特任教授
 団員:BRT 等新たなバス交通システム研究部会部会員を中心とした有志


  <各都市の状況>
  • ボルドー
 ボルドーはフランス南西部に位置する人口約 24 万人の都市である。
ボルドー・メトロポール(ボルドー都市圏)の都市交通運営は TBM(Transports Bordeaux Metropole)が担っており、トラム 4 路線、バス・シャトルバス 80 路線、ローカル・コーチ輸送 27 ルート、ガロンヌ川の水上バス、都市圏交通を運営している。
 多数存在するバス路線のうち、「3」路線が BHNS へ転換予定で、2024 年春の開業に向けて工事を実施中である。
  

  • アングレーム
 アングレームはボルドー北東部に位置する人口約 42,000 人の都市である。グランアングレーム(アングレーム都市圏)の都市交通ネットワーク「メビウス(Möbius)」は、BHNS2 路線と 11 の基幹バス路線、フィーダー4路線および 28 エリアのデマンドサービス等を提供している。
 BHNS はA・Bの2路線で運行され、トラムのない街で幹線的役割を担っている。
 

  • バイヨンヌ
 バイヨンヌはスペインに近いバスク地方に位置する人口約 50,000 人の都市である。
バイヨンヌの BHNS は「Tram’bus(トラムバス)」と呼ばれ、市内に 2 路線が走行する。 基本的に電気連節バスだがハイブリッドバスでの運行も行われている。
 


  【公式訪問】
 バイヨンヌを含むバスク地方都市圏の交通を運営する Syndicat des Mobilites Pays Basque-Adour の Fabian DUPREZ 氏に、バイヨンヌでのトラムバスの整備プロセス・サービス等について現地案内とともに説明を受けた。
その後、Syndicat des Mobilites Pays Basque-Adour のオフィスにて、調査団を代表して中村部会長が DUPREZ氏へ質疑応答した。
  

  • リヨン
 リヨンはフランス南東部に位置する人口 50 万人を超えるフランス第 3 の都市である。リヨン大都市圏の都市交通ネットワークは、120 以上のバス路線とメトロ 4 路線、フニクラ(ケーブルカー)2 路線、トラム 7 路線、障がい者輸送用ミニバス等のサービスを提供している。
  

  【公式訪問】
 レジリエントで気候ニュートラルな都市や地域のための都市計画・地域統合・エコロジーとエネルギーの転換の分野における公的専門知識を開発するフランスの主要な公的機関である CEREMA(セレマ)を訪問した。 CEREMA では、地域の専門知識と技術・建築・モビリティ・交通インフラ・環境とリスク・港湾の 6 つの研究活動分野があり、そのうちのモビリティ分野の機関の担当者に、BHNS に関する研究活動・サービス概要について話を聞いた。
  

※4月頃、調査内容報告を追加更新予定